今回の行程
レッドバロンが実施する大型車へのステップアップ試乗会に参加した。公式案内では、完全に閉じられたサーキットで約20台を一日乗り比べられ、参加費は1,000円。当日配布された一覧には、12組24台の試乗車が並んでいた。
当日配布された試乗車リストを見る
12組24台を左右交互に試乗する方式。午前9時から12時、午後1時から4時まで。
朝6時、羽生PA。おぢ達の熱気
朝6時の羽生PA。すでに旅へ向かうライダーが集まっていた。
集合は東北道下りの羽生PA。埼玉県北部、もう少し走れば栃木という場所だ。
まだ朝6時だったが、バイク駐輪場にはすでに様々な車両が並んでいた。大型ツアラー、アドベンチャー、ネイキッド、アメリカン。朝の羽生PAは、ツーリングへ向かうおぢ達の熱気にあふれていた。
そこへ集まったのは、隼、GB350、ホーネット。高速巡航を得意とする隼、単気筒の鼓動を味わうGB350、軽快なホーネット。性格はまるで違う。それでも、向かう先は同じだった。
休日の早朝、高速道路の駐輪場は、おぢ達の集会所になる。
トンネルのない東北道を北へ
羽生PAを出発し、那須モータースポーツランドへ向かう。東北道は珍しいほど流れがよく、渋滞は一切なかった。
道路の両側には田んぼが続く。青々とした稲、整然と区切られた水田、その間に点在する家と倉庫。高速道路の上から眺めていると、日本は改めて米を作る国なのだと思う。
北へ進むにつれ、道は少しずつ登り、周囲には山が近づいてきた。それでもトンネルには入らない。山へ向かっているのに、空も景色も途切れずに続いていく。
上河内SAも、バイクに魅せられたおぢ達のたまり場だった。
途中、上河内SAで休憩した。ここも朝からライダーでにぎわっていた。知らないバイクでも、車種を確認し、装備を眺め、排気音に耳を向ける。ライダーの休憩は、体を休めるだけでは終わらない。
大きなアメリカンバイクに、おぢとおばさんが二人乗りで発進していった。一台のバイクで同じ景色を見に行く。バイクは、夫婦の絆をつなぐ道具でもあるらしい。
山へ向かっているのに、空は最後まで閉じなかった。
高速道路を降りると、移動が旅になる
上河内SAを出たあとは、さらに東北道を北上し、那須ICで高速道路を降りた。ここからは下道だ。
やはり田園風景が続く。田んぼと集落の間を縫うように道路が伸び、信号は少なく、車の流れも穏やかだった。
最近になって、ツーリングの面白さは高速道路よりも、こうした田舎道にあると感じる。速く移動するだけなら高速道路でいい。だが、風を受け、土地の匂いを感じ、景色がゆっくり変わっていく時間は、下道でしか味わえない。
朝8時30分、那須モータースポーツランド


朝8時30分、那須モータースポーツランドに到着した。まだ早かったためか、場内のバイクはまばらだった。
受付を済ませ、ピットへ向かう。そこには、今にも走り出しそうな大型バイクがずらりと並んでいた。隼、Ninja、Z900RS SE、V-STROM、MT、GSX。形も排気量も、乗車姿勢もまるで違う。
試乗車はピットごとに2台ずつ配置され、走行のたびに左右を交互に乗る方式だった。参加費1,000円で、これだけの車両を実際に比較できる。改めて考えても、安すぎる。
試乗を待つ車両。並んでいるだけで、すでに速そうだった。
午前9時、おぢ達が少年に戻る
開始後、会場は多くの参加者とバイクで埋まっていった。
午前9時。試乗会が始まった。
それまで静かに説明を聞いていたおぢ達が、一斉にバイクへ向かう。車体を眺め、足つきを確かめ、ハンドルを握り、メーターをのぞき込む。その顔は、完全に子供だった。
長い社会人生活の中で、頭も体も固くなる。立場ができ、責任が増え、気付けば余計なこだわりまで抱え込んでいる。
だが、乗りたかったバイクを前にすると、そんなものは簡単にほどけていく。ただ乗りたい。ただ楽しい。それだけで十分なのだ。
そこで気が付いた。くだらないこだわりなんて、捨ててしまえばいい。
バイクは、おぢを少年に戻す。
そして、くだらないこだわりを置いていく場所でもある。
ピットでは、おぢがおばさんに声を掛けていた。「次は何に乗るんですか」「さっきのバイク、どうでした」。名前も仕事も知らない。それでも、バイクが一台あれば会話は始まる。
試乗会は、ただバイクに乗る場所ではなかった。人と人がつながる、出会いの場でもあった。
一台ごとに、まったく違う
隼では、エンジンから伝わる熱気と、少しアクセルを開けただけで前へ出る圧倒的な力を感じた。
V-STROMでは、大柄な車体から想像する以上の安定感があった。路面をしっかりつかみ、多少のことでは揺らがない。長距離を走るための道具であることが、短い試乗でも伝わってくる。
GSXでは、エンジンの軽快な吹け上がりと、車体が素直に向きを変える扱いやすさを感じた。AMT車では、クラッチ操作を意識せずに走れる気楽さと、変速の滑らかさが印象に残った。
同じバイクでも、熱、重さ、姿勢、安定感、曲がり方、操作のしやすさは一台ごとに違う。速さだけを見るのではなく、その車両が何を得意としているのかを感じながら乗る。それが大切なのだと思った。
どれが一番優れているかではない。どの個性が、自分に合うかだ。
圧倒的人気はZ900RS SE
この日、圧倒的な人気を集めていたのはZ900RS SEだった。試乗開始直後から長い列ができ、ほかの車両に空きが出ても、人が途切れない。
男なら一度は、少しやんちゃなものに憧れる時期がある。速そうで、荒々しく、ただ者ではない雰囲気をまとったものに引かれる。90年代に青春時代を過ごしたおぢ達にとって、「カワサキのZ」という名前には、性能表だけでは説明できないものがあるのだろう。
昼、サーキットを後にする
気が付けば昼になっていた。並び、乗り、戻り、また別の列へ並ぶ。その繰り返しが楽しく、時間の感覚がなくなっていた。
午後の試乗も残っていたが、帰りの行程を考え、この日はここまでにした。
帰る前に、参加者が乗ってきたバイクを眺めていく。隼やNinja、懐かしいTW。そして何より目を引いたのがCB1100だった。
黒く光るタンク、大きな空冷エンジン、余計なものを足していない端正な形。派手ではないが、ホンダらしい丁寧さと重厚感が、一台に詰まっていた。最新の大型バイクを何台も見たあとでも、なぜか目が離れなかった。
新しさだけが、バイクの価値ではない。CB1100には、時間がたっても残る格好よさがあった。
畑の中の古民家で、宇都宮餃子
ナビに連れてこられた畑の中に、古民家の餃子店が現れた。
後ろ髪を引かれる思いでサーキットを後にし、次は宇都宮へ向かった。餃子を食うのだ。目的地は「宇都宮餃子さつき」。
ナビの案内どおりに走ると、建物が減り、気付けば畑の真ん中まで連れてこられていた。本当にここで合っているのか。そう思ったところに、古民家が一軒現れた。
宇都宮市街から離れた場所で、古民家に入り、餃子を食う。駅前の有名店とは違うが、こういう店には、こういう店の風情がある。


中へ入ると、外観とは対照的に、店内はしっかりと改装されていた。入口にはテレビ番組の取材写真やサインが並ぶ。畑の中に突然現れた店だったが、どうやらかなり知られた店らしい。期待感が一段上がった。
980円のオールスター定食
7種類の焼き餃子、水餃子、大盛り飯。これで980円だった。
頼んだのは、オールスター餃子定食。店を代表する7種類の餃子を、一つずつ食べ比べられる。水餃子とご飯も付いて、980円。安すぎる。
王道のさつき餃子、ピリ辛のキムチ、爽やかなゆず、ニンニクを使わず肉の味を前に出した肉餃子、さっぱりした青しそ、お茶の香りが残る茶美人、そして栃木県産和牛を使った和牛餃子。
食ってみると、どれもうまい。味が一個ずつ変わるので、七個では足りない。水餃子も最高だった。つるりとした皮と熱いスープが、朝から何も食っていなかった体に染みていく。
ご飯はもちろん大盛り。空腹だったため、餃子も米も、ほとんど飲み物のように腹へ消えていった。
980円で七つの味、水餃子、そして大盛り飯。空腹のおぢには、これ以上ない定食だった。
バイク、餃子、その次は風呂
大満足のまま店を出て、次に向かったのは「宮の街道温泉 江戸遊」。
朝から高速道路を走り、サーキットで何台もの大型バイクにまたがり、宇都宮まで下道を走ってきた。自分では気付いていなかったが、肩も腕もかなり固まっていた。
天然温泉の大浴場、露天風呂、炭酸泉、サウナ。湯に体を沈めると、少しずつ力が抜けていく。隼の熱、V-STROMの安定感、Z900RS SEの前にできた列。一日の出来事を思い出しながら、何も考えずに湯に浸かった。
バイクで固まった体は、風呂でほどく。おぢのツーリングは、湯に浸かるまで終わらない。


湯から上がると、冷たいものが欲しくなった。選んだのはオロポ。値段は500円。飲み物として考えれば、なかなか強気である。
だが、風呂上がりに見つけてしまった以上、ここは飲むしかない。冷えたジョッキには、アイスまで浮かんでいた。炭酸と甘さが火照った体へ流れ込み、走って、乗って、食って、風呂に入った一日が完成に近づいた。
帰りの羽生PAは、江戸の町だった
羽生PA上り「鬼平江戸処」。朝の下り線とは、まるで別の場所だった。
江戸遊を後にし、徳次郎ICから高速道路へ入る。東北道へ合流し、南へ戻った。
帰り道、再び羽生PAへ立ち寄る。だが、朝に集合した下り線側とは雰囲気がまるで違う。白壁、木格子、瓦屋根、柳の木。江戸の城下町を思わせる空間が広がっていた。
家族連れが旅の最後の思い出として、食事をし、土産を選んでいる。そんな光景を見ていると、こちらも何か食わずには帰れない。
店を物色し、選んだのはそばだった。江戸っ子といえば、そば。それ以外の選択肢はなかった。


深谷ねぎを使ったピリ辛冷やしそば。これが、本当にうまかった。冷たいそばの喉ごしに、ねぎの甘みと辛味だれの刺激が重なる。朝から走り続け、餃子を食い、風呂にも入った。疲れた帰りのおぢの胃袋を、やさしく、しかし確実に満たしてくれた。
この瞬間、勝ちが確定した
そばをすすりながら気が付いた。
前回のつくばツーリングでは、朝のコメダ珈琲の時点で勝ちが確定していた。だが、今回は違う。
大型バイクを乗り比べ、古民家で餃子を食い、風呂に入り、オロポを飲み、最後に江戸の町並みで冷たいそばを食う。すべてがつながった、この瞬間だった。
ツーリングの回数を重ねるほど、自分にとって何が楽しいのかが分かってくる。距離を伸ばすだけではない。目的地を増やすだけでもない。走る、食う、休む。それぞれがうまく重なったとき、ようやく勝ちは確定する。
最後に土産を買い、バイクへ戻る。建物の外にはソフトクリームがあった。これまでの旅では、仲間へソフトを食わせるのが通例になっていた。
だが、今回はもういい。すでに勝ちは確定している。ここから何かを足せば、満足ではなく蛇足になる。ソフトクリームを横目に見ながら、素直に帰ることにした。
勝ちが確定した旅に、追加点はいらない。
まとめ
今回の旅は、大型バイクへ乗るためだけのツーリングではなかった。
性格の異なるバイクを乗り比べることで、それぞれの良さが分かった。同時に、自分の中に残っていた、余計なこだわりにも気付いた。
社会人として過ごす時間が長くなるほど、立場や責任が増えていく。頭も体も固くなり、どうでもいいことまで気にするようになる。
だが、バイクへまたがった瞬間、おぢ達は驚くほど素直な顔になった。知らない者同士でも話が始まる。格好いいバイクを見れば足を止める。乗りたかったバイクへ乗れれば、子供のように喜ぶ。
それでいいのだと思う。
走りたいから走る。乗りたいから乗る。食いたいから食う。疲れたら湯に浸かる。くだらないこだわりを捨て、楽しいものを素直に楽しむ。
その単純さを取り戻すために、おぢ達はバイクへ乗っているのかもしれない。
バイクは、おぢを少年に戻す。
そして旅は、くだらないこだわりを置いて帰るための時間でもある。
公式情報・メモ
- 那須MSLステップアップ試乗会:2026年7月24日〜26日、9時〜16時。参加費1,000円で一日乗り放題。
- 宇都宮餃子さつき:オールスター餃子は、さつき、キムチ、ゆず、肉、青しそ、茶美人、和牛の7種類。
- 宮の街道温泉 江戸遊:天然温泉、露天風呂、炭酸泉、2種類のサウナを備える。
- 羽生PA上り「鬼平江戸処」:東京・江戸への入口をテーマに、江戸の町並みを再現した施設。