今回の旅
2026年9月25日から26日まで、隼、GB350、ホーネットの3台で信州・山梨へ一泊ツーリングに出た。
事前の計画では、白樺湖、車山、霧ヶ峰、八島湿原、美ヶ原まで回るつもりだった。だが、旅は予定表を消化する競技ではない。走って、喰って、景色を見て、その時点で十分なら先を削る。今回の二日間は、その判断が旅の質を守った。
DAY 2 穂高 → 安曇野IC → 諏訪湖SA → 八ヶ岳PA → 勝沼IC → 花藤食堂 → はやぶさ温泉 → 談合坂SA → 首都高 → 各自帰宅
晴れた高原へ
初日は、中央道からビーナスラインへ。朝そば、甲府盆地、白樺湖、標高1,800m超の草原。目的地を増やすより、一つひとつを味わう日になった。
朝7時半、石川PA。そばで旅を始める



集合は石川PA。まずは腹を入れることにした。選んだのは、パーキングエリアのそばだった。
朝の高速道路には、独特の空気がある。まだ一日が始まりきっていない時間にバイクを止め、湯気の立つそばをすする。豪華な朝食ではない。だが、これでいい。
朝の空腹に、パーキングでそばを喰う。
それだけで、完成された朝になる。
腹を満たし、7時30分に出発した。隼、GB350、ホーネット。それぞれ性格の違う3台が、中央道を西へ向かう。
8時45分、双葉SA。膀胱の限界から絶景へ


石川PAから約100km。双葉SAへ着いた時点で、まず限界を迎えたのはバイクではなく膀胱だった。
バイクを止め、景色を見る余裕もなくトイレへダッシュ。用を済ませて人間に戻り、駐車場へ戻ったところで展望台を見つけた。
上ってみると、眼下には甲府盆地が広がっていた。山梨といえば、山と畑が中心だと勝手に思っていた。だが、盆地の平地には住宅も道路も建物もびっしりと広がり、一つの都市圏が山に囲まれるように収まっている。
膀胱に負けて立ち寄ったSAで、思いがけず土地の姿を知る。こういう予定外があるから、途中で止まるのも悪くない。
諏訪IC。なぜここだけガソリンスタンドだらけなのか
諏訪ICを降り、まずは給油。ここから山へ入る。
諏訪ICで中央道を降り、まずは宇佐美で給油した。ところが周囲を見ると、同じ一角に別のガソリンスタンドがあり、道路の反対側にもまたガソリンスタンドが見える。
高速から降りる車、観光地へ向かう車、これから山へ上がる車。需要が集中する場所なのだろう。それにしても密度が高い。
諏訪、ガソリンには困らなそうである。
燃料を満タンにし、ここからビーナスラインへ入る。市街地を離れるにつれ、道路は山へ向かって上り始めた。
10時50分、白樺湖。美しいのに、静かすぎる


ビーナスラインを登り、10時50分に白樺湖へ到着した。湖の周囲を少し歩く。水面の向こうに山が立ち、空気も涼しい。単純に、美しい。
ところが観光客は驚くほど少なかった。周囲には営業していないように見える旅館や飲食店も目立つ。湖はこれだけきれいなのに、町は妙に静かだった。
腹も少し減ってきたので、営業していた白樺湖観光センターへ。名物のおやきを頼む。2人は野沢菜。ところが二つ注文したところで売り切れ。一人は、仕方なくかぼちゃを選ぶことになった。
観光客は少ない。まだ午前中。それなのに野沢菜は二個で終了。
そう思いながら食ってみると、これがうまい。野沢菜も、かぼちゃも熱々。少し冷たい高原の空気の中で、白樺湖を眺めながら食う。
売る気は怪しい。だが、白樺湖を眺めながら食う熱々のおやきは最高だった。
高い木が消える。ビーナスラインの本領
標高が上がるにつれ、高い木がなくなり、低い草原と空だけになる。
白樺湖を出て、さらにビーナスラインを上る。標高が上がるにつれ、高い木が少しずつ姿を消した。
やがて道路の両側に広がるのは、背の低い草に覆われた高原だけになる。視界を遮るものがない。空が広い。遠くの山まで見える。その真ん中をバイクで走っていく。
途中、展望できる場所を見つけては止まり、景色を眺める。早く目的地へ行くための道路ではない。この道を走ること自体が目的になる。
低い草原、広い空、バイク。
この爽快さは、何物にも代えられない。
12時、車山肩。標高1,803mの世界


正午、車山肩へ到着した。ビーナスラインの標高断面図によれば、ここは標高1,803m。バイクで走ってきて、いつの間にか雲に近い高さまで上がっていた。
目の前に広がるのは、霧ヶ峰の草原と山並み。背の高い木が少ないため、視界が横へ横へと広がっていく。写真に収めても、この広さは半分も伝わらない。
近くには「ころぼっくるひゅって」というカフェがあり、長い列ができていた。諏訪観光協会の案内によれば、看板のブレンドコーヒーは霧ヶ峰の地下水を使い、一杯ずつサイフォンで淹れるという。
もちろんコーヒー自体もうまいのだろう。だが、ここでは味だけではない。標高1,803m。目の前にこの草原を眺めながら飲む。それだけで一杯の価値が変わる。
この景色には、人を立ち止まらせる力がある。
12時10分、霧ヶ峰。そばと仕事とソフトクリーム


車山肩から少し下り、12時10分に霧ヶ峰へ。ここで昼飯にした。
二人はきのこそば、一人は山菜そば。高原を走って少し冷えた体に、温かいつゆが染みる。きのこの香りも、山菜の素朴な味も、この場所で食うとうまい。
朝もそばを食った気がするが、そんなことはどうでもいい。うまいものは何度食ってもうまい。
高原の昼飯に、突然サイバー相談
平和にそばを食っている途中、知人から電話が入った。経営している会社の偽サイトが作られ、困っているという相談だった。
こちらは霧ヶ峰。目の前にはそば。相手は偽サイト被害の真っただ中。
旅の途中ではあるが、ここはprofessionalとして切り替える。状況を聞き、必要な対応について適切に助言した。相談を終えたら、再び旅人へ戻る。
最後は恒例のソフト
そばを食い終えたら、ミルクとマスカットのダブルソフト。高原へ来てソフトを食わずに帰るという選択肢はない。
旅にソフトクリームは欠かせない。
今回は、そばの途中にサイバー相談まで付いてきた。
全部回らない。それが初日の正解だった
事前計画では、このあと八島湿原と美ヶ原へ行く予定だった。
だが、この時点ですでに相当な距離を走っている。白樺湖を歩き、車山肩で高原を眺め、霧ヶ峰でそばを食い、ソフトまで食った。
ここから予定を消化することだけを目標にすると、旅が作業になる。立ち寄った場所の数は増えても、疲れて景色を雑に見て、宿へ着く頃にはへとへとでは意味がない。
八島湿原と美ヶ原は切った。ビーナスラインを進み、途中から山を下り、岡谷ICから長野自動車道へ。安曇野ICで高速を降り、宿へ向かう。
旅は、予定表を全部埋めれば勝ちではない。
満足したところで欲張らずに切り上げる。それも旅の技術だ。
山奥で出会った、有明山神社の威厳


安曇野ICを降り、途中のスーパーで夜のつまみと飲料を買う。その後は下道をかなり走った。建物が減り、山が近づき、「本当にこんな奥に宿があるのか」と思う頃、宿の手前で有明山神社に立ち寄った。
安曇野市観光協会によれば、有明山神社は信濃富士とも呼ばれる有明山と関わりの深い神社で、境内の裕明門や手水舎には龍、鳳凰、十二支などの彫刻が施されている。長野県公式観光情報でも、有明山を信仰崇拝する山岳信仰の神社として紹介されている。
実際に境内へ入ると、その説明以上に空気が重い。古銭を思わせる大きな石、土俵、石灯籠。観光向けに整えられた場所というより、今も神事が行われる神社の威厳を感じた。
参拝を済ませ、宮司に御朱印を書いてもらう。そこで宮司から、先日、出川哲朗がバイク旅で訪れたという話を聞いた。しかも、一緒に記念撮影した写真まで嬉しそうに見せてくれた。
厳かな境内で御朱印を書く宮司も、有名人が来れば普通にうれしいらしい。
宮司といえど、ただのじいさんだった。
カイザーベルク穂高。ライダーのための宿
山奥まで走った先に現れたカイザーベルク穂高。
ようやくカイザーベルク穂高に到着した。入口へ入って最初に目に入ったのは、バイク専用の屋内ガレージだった。
公式案内を見ると、インドアガレージにはメンテナンス工具、充電器、洗車機、乾燥室なども備わる。雨風を避けて愛車を置けるだけではない。さすが、レッドバロンが運営する宿。ライダーが欲しいものを分かっている。
まずは温泉
チェックインしたら、荷物を置いて温泉へ。ここまで朝から走り続け、体は自分が思っている以上に固まっている。
カイザーベルク穂高の湯は、中房温泉から引いた天然温泉。公式表記では「単純アルカリ泉」。湯に体を沈めると、一日まとっていた力が少しずつ抜けていく。
バイクで固まった体は、温泉で戻す。
ナイアガラとハンバーグ
夕食のメインはハンバーグ。量は控えめだが、おぢにはちょうどいい。
風呂から上がり、夕食へ。食事の前にはウェルカムドリンクとして「ナイアガラ」というワインをいただいた。甘くて飲みやすい。長く走ったあとの体には、この分かりやすい甘さがいい。
メインはハンバーグ。食ってみると、なかなかうまいじゃねえか。量は少し控えめだが、朝からそば、おやき、またそば、ソフトと喰っている。
部屋でバイクを語る。初日の勝ちが確定する
夕食を終え、部屋へ戻る。途中のスーパーで買っておいたつまみと飲み物を広げ、3人でバイクの話をする。
今日のビーナスラインはどうだった。あの景色はやばかった。次はどこへ行く。そんな話をだらだら続ける。途中でもう一度温泉へ入る。
観光地を一つ増やすより、この時間のほうが大事だった。
本当ならもう少し飲んでいたかった。だが、体は正直だった。朝から走り続けた疲れが一気に出てくる。翌日も走る。無理をする理由はない。
走る。喰う。浸かる。そして最後は仲間とバイクの話をする。
八島と美ヶ原を切った判断は、ここで正解になった。
この日は早めに布団へ入った。
雨まで含めて、旅にする
二日目の朝、外は本降り。これから東京方面まで約300km。カッパを着て、雨風の中央道へ向かった。
朝風呂、軽い朝飯、そして本降りの雨
二日目の朝。起きたら、まず温泉へ。前日の疲れをもう一度湯でほどき、7時から朝食に向かった。
パン、オムレツなどの軽食。若い頃なら物足りなかったかもしれないが、前日からかなり喰っている。
おぢの朝飯は、このくらいがちょうどいい。
部屋へ戻り、外を見る。雨は思っていた以上に強かった。
だが、宿の前に広がる日本庭園風の庭は、雨に濡れることで木々の緑が濃くなり、地面もしっとり暗くなる。山の宿らしい静けさが増していた。
それだけでも、安曇野まで来た甲斐があった。
雨の300km。これこそ、漢のバイク道なり
問題はここからだった。外は雨。これから約300kmの道のりを帰る。
晴れていれば楽なのは分かっている。だが、雨の日まで含めてバイク旅だ。天気に文句を言っても何も変わらない。
カッパを着込み、荷物を確認する。
天気に感謝して、ベルクを出発した。
安曇野ICまでは下道。9月とは思えないほど涼しく、カッパ越しに当たる雨が意外なほど心地いい。田んぼと山の間を走る道は、派手な絶景ではないが、土地の生活の中を走っている感覚がある。
やはり、田舎道はいい。
諏訪湖SA。雨の湖も悪くない


安曇野ICから高速へ入り、まずは諏訪湖SAを目指した。距離は長くないが、この日は雨だけでなく風も強い。
バイクは雨も風もそのまま受ける。無理に距離を稼がず、休憩を細かく刻んで帰る作戦にした。
諏訪湖SAには展望デッキがある。そこから見る湖は、晴天の青い湖ではない。空も水面も重たい色をしている。それでも、大きな湖と周囲を囲む山を眺めていると、自然の雄大さは十分に伝わってくる。
雨の諏訪湖も悪くない。
天気が違えば、同じ場所でも別の景色になる。
花藤食堂。普通盛りが普通ではない
昔ながらのラーメンと丼のセット。これで1,100円。
諏訪湖SAを出て、途中で八ヶ岳PAに寄りながら南下。勝沼ICで中央道を降り、目的地の花藤食堂へ向かった。
着いた頃には大雨。それでもバイクを止め、ずぶ濡れのまま店内へ入る。狭い店だが、昔ながらの食堂らしい風情がある。壁には日下部警察署などの感謝状が何枚も飾られており、地域の交通安全活動にも関わっているように見えた。
注文したのはラーメンセット。昔ながらの醤油ラーメンに、それぞれ好きな丼を付ける。
そして料理が運ばれてきた。
……おかしい。こちらは普通盛りを頼んだはずである。
丼には大盛り級のご飯。その上に具が容赦なく積まれている。口コミでも「普通盛りでも爆盛り」「デカ盛りの店」と評される花藤。目の前の丼を見れば、その評判には納得しかない。
外では雨が叩きつけている。雨具を着て高速を走り、冷えた体でたどり着いた昔ながらの食堂。そこで熱いラーメンをすすり、山のような丼を喰う。
こういう飯は、しゃれた料理とは別の方向で強い。
はやぶさ温泉。ずぶ濡れの体を源泉で戻す
昔ながらの温泉旅館のような佇まい。雨のツーリングにはありがたすぎる。
花藤で腹を満たしたあとは、近くのはやぶさ温泉へ向かった。建物へ入ると、昔ながらの温泉旅館のような雰囲気がある。
カッパもヘルメットもすでにかなり濡れていた。すると女将さんが、その濡れた装備を預かってくれた。こういう自然な気遣いは、田舎の小さな温泉ならではだと思う。
はやぶさ温泉は、公式案内では笛吹川断裂温泉帯のアルカリ性単純泉。源泉天然100%掛け流しで、加水・加熱・塩素投入を行わず、約42℃の源泉をそのまま利用している。カランやシャワーも源泉だという。
湯に入ると、肌をなでたときにぬるぬるする感覚がはっきり分かる。雨の中を走り続けて冷えた体には、この濃い湯が強烈に気持ちいい。
風呂から上がっても、すぐには出発しなかった。30分ほど休む。体も気持ちも、ここで一度リセットした。
外を見ると、少しだけ雨脚が弱くなっている。
ここだ。
カッパを着直し、ヘルメットをかぶる。覚悟を決めて、もう一度雨の中へ戻った。
談合坂。旅の終わりは、いつも少し寂しい
勝沼ICから中央道へ戻る。雨はまだ強く、風もある。長時間の雨中走行で、体は芯まで冷えていた。疲れもたまっている。
最後の大きな休憩は談合坂SA。
談合坂へ寄ると、毎回少し寂しくなる。ここまで来ると、旅の終わりが見えてしまうからだ。
ただ、この日は感傷に浸る前に体をどうにかする必要があった。まず温かいコーヒーを飲む。一口入るごとに、胃の中から熱が戻ってくる。
コーヒー一杯で、もう一度走れるくらいには回復した。
だが、まだ勝ちは確定していない。
なぜか。
温かいコーヒーで体を戻した直後に、ソフトで再び冷やす。
談合坂ソフトを購入し、ソフトを喰らう。せっかく温まった体を、今度は自ら冷やす。
これが漢の健康法である。医学的根拠は、もちろんない。
これからもう一度、雨と風の中へ戻る。ならば先に体を冷やして外気に慣らしておく。サウナで言うところの温冷交代浴のようなものだ。
気力を絞り、首都高へ
談合坂を出たあとは、もう観光ではない。残っている気力を絞り、雨と風の中をただ前へ進む。
中央道を抜け、首都高へ。見慣れた景色が増えてくるにつれ、二日間の旅が終わりに近づいていることが分かる。
やがて、それぞれの家へ向かう分岐が来た。合図をして、一台ずつ別れていく。
朝からずっと一緒に走っていた3台が、それぞれの日常へ戻っていく。そこで今回の旅は終わった。
まとめ
今回の旅は、計画どおりにすべてを回った旅ではなかった。
八島湿原も、美ヶ原も行かなかった。初日のうちに「ここから先は削る」と決めた。だが、そのおかげで白樺湖を歩き、車山肩の景色を眺め、霧ヶ峰でそばを味わい、宿で温泉に入り、部屋で仲間とバイクの話をする余白が残った。
二日目は雨だった。しかも帰路は約300km。カッパを着て、雨風に打たれ、短い区間ごとに休み、温泉で体を戻し、また雨の中へ出た。
晴れだけなら楽だったかもしれない。だが、雨だったからこそ、諏訪湖の重たい空も、はやぶさ温泉の湯も、談合坂の一杯のコーヒーも強く残った。
最後はソフトを喰い、首都高で3台がそれぞれの方向へ散っていった。
旅は、予定どおりに進んだから残るわけではない。
晴れた高原で風を受けたことも、雨の高速で体を冷やしたことも、うまい飯を食ったことも、温泉で力を抜いたことも、全部ひっくるめて旅になる。
行かなかった場所もある。予定を削った場面もある。
それでも、だからこそ余白ができた。景色を眺め、飯を味わい、仲間とくだらない話をする時間が残った。
旅の終わりは、目的地に着いた瞬間ではない。
また次も走りたいと思った瞬間に、ようやく一つの旅が完成する。
公式情報・メモ
- 車山肩・ビーナスライン(諏訪観光協会):標高断面図では車山肩1,803m。
- ころぼっくるひゅって(諏訪観光協会):霧ヶ峰の地下水を使い、ブレンドコーヒーを一杯ずつサイフォンで抽出。
- 有明山神社(安曇野市観光協会):有明山に関わる神社。裕明門・手水舎の彫刻も見どころ。
- カイザーベルク穂高(公式):中房温泉から引き湯した天然温泉。公式表記は「単純アルカリ泉」。インドアガレージ、工具、充電器、洗車機、乾燥室等を備える。
- 花藤食堂の口コミ:今回のラーメンセットは1,100円。口コミでも普通盛りから量が多い「デカ盛り」の店として知られる。
- はやぶさ温泉(公式):アルカリ性単純泉の源泉天然100%掛け流し。公式案内では加水・加熱・塩素投入なし、源泉は約42℃。
営業時間・料金・施設情報は変更される場合がある。本文中の体験描写は2026年9月25日〜26日の実体験をもとに記載。